海外留学助成 循環器領域
留学紀行文
2003年受賞者
アメリカ合衆国の栄光と影、科学の中にある民族の壁 岐阜大学大学院医学研究科 循環病態学 講師 川崎 雅規
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私は2003年から2年間、ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院に留学していました。留学後私の中でアメリカの地位は大きく低下し、日本のアメリカ化への疑問が大きくなりました。日本は多額のアメリカ国債を買わされているうえ、経済行為のリスクも証券化するという馬鹿げた行為で発生したサブプライム問題で多大な打撃を被りました。それでもなお、日本の映画がアカデミー賞外国作品賞を受賞したと、アメリカの基準でなされるお祭り騒ぎに浮かれている日本には呆れてしまいます。
私は留学中、アメリカが抱える矛盾を率直にアメリカ人に突きつけることができました。そのようにできたのは、私が万有Fellowshipという母国からの奨学金を持参していったからと言っても過言ではありません。留学先の研究室から賃金を得ていては、いろいろな意味でそうはいかなかったでしょう。そういう点でも万有Fellowshipには心から感謝します。世界の技術力のトップを走る日本が、アメリカから学ぶことは少なくなっています。8年前、日本循環器学会が英語での口述発表を採択して以来、私たちの英語力は徐々に向上し、米国心臓学会議での日本の採択演題数はドイツを大差で抜き、アメリカに次ぐ2位となりました。予算・倫理面を除いてはアメリカに居なければできない研究も少なくなってきました。しかし、日本人がアメリカに留学する意義がなくなってしまったわけではありません。母国にいるだけでは認識できないことが、異質の文化に接することで、母国と他国の長所・短所を縦軸と横軸に置く4つのマトリックスの中に身を置き体験することができるのです。これまでアメリカが日本よりも進んでいるという前提でなされてきた米国留学ですが、今後はアメリカを反面教師として留学する時代に突入しました。そしてその意義はリーマンショック以降さらに色濃くなっています。アメリカに留学する価値は十二分にあるのです。