第3シリーズ「ストレス」を始めるにあたって
唐木 英明 (組織委員)

 「若手研究者のための薬理学セミナー」が始まったのは1998年のことでした。大学での研究が細胞以下の分子・遺伝子レベルに集中し、学生の皆さんは酵素や受容体や遺伝子はよく知っているけれど、それが生体の機能にどのように関与するのかほとんど知らないという「部品生物学」の風潮が懸念されていました。そこで、このセミナーは「分子レベルから生体に」というスローガンの下に、生体について総合的に理解することを目的にして、一流の研究者をお招きして最新の知識を分かりやすく解説し、薬理学だけでなく生物を研究する楽しさを分かっていただきたいと願って始めました。
 セミナーの進行にも工夫を凝らして、モデレーター役の先生が分子レベルから生体までを含む一つのストーリーを作り、その中で数人の先生がトピックスについて話し、全部を聞き終わると一冊の本を読んだようにその分野の知識が整理できるという方法を採用しました。講演をされる先生方には、学会で使うようなデータスライドを禁止して、ストーリーを重んじた、視覚的に分かりやすいスライドに作り変えていただきました。また、少なくとも2回のリハーサルを行い、ストーリーとスライドの確認を行いました。こうして舞台公演のように入念な準備を重ねて本番を迎えます。
 一番苦労をしたのはテーマの選定です。セミナーは毎年1回ですが、一つのテーマを3年続けることにしました。第1シリーズのテーマは「イオンシグナル」で、その第1回は「イオンチャンネルとポンプの進化」、第2回は「イオンと細胞行動」、そして第3回は「進化するATPシグナリング」でした。2001年から始まった第2シリーズのテーマは「脳」で、第1回は「脳と行動」、第2回は「脳と病気」、第3回は「脳と記憶」でした。二つのシリーズとも内容が豊富で、しかも楽しく分かりやすく、大変に好評でした。
 この間に主催が万有製薬から万有生命科学振興国際交流財団に変わり、組織委員が稲垣千代子関西医科大学教授、桂木 猛福岡大学教授、明楽 泰万有製薬副社長そして唐木から、玉置健一実験動物中央研究所理事そして唐木に代わり、セミナー名が「若手研究者のための生命科学セミナー」に変わりました。そして、今年から第3シリーズの「ストレス」が始まります。
 「現代はストレス社会」とか、「ストレスは多くの病気の原因」など、一般用語としてだれでも知っているストレスという言葉ですが、その科学的な意味を理解している人は少ないと思います。第1回は「ストレスと脳」、第2回は「ストレスと疾患」、そして第3回は「ストレスと生活」を課題に、最新の研究成果を分かりやすく解説して、セミナーは続きます。皆さんの科学的興味だけでなく、実生活においても役に立つ知識が得られることは間違いがない楽しいシリーズの始まりです。

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